かつての俺は、
あの巨大な壁に向かって、こぶしを振り上げていた。
何度も、何度も、何度振り下ろしても、
壁は無言で俺を見下ろし、傲然と立っていた。
俺の拳は傷つき、骨は砕け、皮は裂け、血が流れた。
それでも俺は、叩き続けた。
しかし、壊れるのは、いつも俺の側だった。
そして、俺は気づいた。
この壁は、ただの物理的な壁ではない。
この世界そのものを取り囲む巨大な構造体――
利権という名の巨石で積み上げられ、
損得という名のセメントで固められ、
洗脳という名の黒い霧で視界を奪う、
終わりなき牢獄の堅固な壁だと。
迷路
俺はこぶしを振り上げるのをやめた。
諦めたわけじゃない。
俺は知ったのだ。
叩き続けても、壊せないものがあると。
それからの俺は、出口を探し始めた。
壁の内側を、手探りで、
深い霧の中を進むように、
何度も、何度も、行き止まりに突き当たりながら、
絶望と希望の狭間を彷徨い続けた。
俺は飢え、渇き、
夜は雑草を噛み、朝は結露をすすりながら生き延びた。
それでも出口は見えず、
ようやく辿り着いた場所は――
あろうことか、出発地点だった。
壁は俺をあざ笑うように、立ちはだかっていた。
俺はすべてを失い、
傷心し、疲れ果て、地に倒れた。
支配装置
この壁を築いたものの正体は、すでにわかっている。
それは、政治家や官僚だけではない。
学校、企業、メディア、法律――
あらゆる制度が、不可視に互いを補完し、
一つの巨大な支配装置となって機能している。
その装置の燃料効率を上げる促進剤は、
人々の心に深く染み込んだ損得勘定の心だ。
人々は笑い、スマホを操作しながら、
今日も自分が得をするために躍起になる。
だが、誰も気づかない。
それが、自分を縛って動けなくしていることに。
それが、壁をより厚く、より高く、より堅固にしていることに。
予感
脱走者には、社会的抹殺が待っている。
行き場も、居場所も失い、奈落の底へと落ちる。
俺はその奈落の底で、じっと耐えている。
けれど、俺の中の何かが、確かに感知している。
変化は、すでに始まっている。
見えないところで。
あるいは、見えているのに見ようとしていないところで。
その変化が、静かに進む変化が、
いずれ、この世界のかたちそのものを変えてしまう大変動になるかもしれない。
予感が、確かにそう告げている。
渇望
俺は渇望している、その変化の先に来るものを。
まだここからの出口は見えない。
けれど、目を閉じれば確かに感じる――
彼方から、出口が近づいていることを。
俺は、耐えているが、屈服したわけではない。
俺は、こうして奈落の底から、未来を凝視しているのだ。
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